研究内容
熱い宇宙をクールに観測!
X線は1千万度を超えるような「熱い」場所から出てきます。あるいは、光の速度に近い高速粒子から出てきます。今やX線は、惑星・彗星から銀河団に至るまで、宇宙のあらゆる階層から出てくることがわかっています。つまり、ほとんどの天体はなんらかの形で高エネルギー現象を起こしているのです。我々は宇宙から来るX線を観測し、物理学を駆使してデータを「冷静に」解析し、宇宙高エネルギー現象の謎を解明することを目指しています。
高エネルギー天体物理学の研究
私たちの研究室では、ブラックホール、中性子星、マグネターなどのコンパクト天体をはじめとし、超新星爆発後に形成される超新星残骸や爆発的恒星現象といった様々な対象に興味を持ち、X線観測を軸に研究をしています。とくにコンパクト天体は、地球上では再現が困難な強重力場や強磁場といった環境を形成し、極限状態での物理を理解するうえで重要な実験場を提供します。またそれら天体の起源や進化の歴史は、銀河といったより大きな構造の形成の理解にも繋がり天文学的にも重要です。そのような中、最新鋭の XRISM 衛星は、コンパクト天体周辺の質量降着円盤や光速に近い速度で吹き出すプラズマ流など、周辺構造の運動を詳細に明らかにする上で極めて有用なデータを提供しています。また研究の進展のためには、観測データの解析だけでなく、その結果を理論モデルと定量的に結びつけることが重要です。そこで私たちは、モンテカルロシミュレーションを用いた X 線輻射輸送計算コードを独自に開発し、多様な物理条件下での放射過程を詳細にシミュレートし、観測結果を理論的に解釈することを目指しています。
Keywords
- ブラックホール
- 中性子星
- 活動銀河核
- 超新星残骸
- 爆発的恒星現象
次世代宇宙ミッション・観測機器の開発
私たちの研究のもう一つの柱は、X線天文学のための観測装置の開発です。当研究室は、2023年9月に打ち上げられた最新のX線天文衛星XRISMに搭載されたX線CCDの主要開発機関です。このX線CCDは、ノイズを押さえるため衛星軌道上では-110~-120℃まで冷やされ、満月を超える広い視野でX線画像とスペクトルを取得します。XRISMにはX線マイクロカロリメーターも搭載されており、こちらは50mKという超極低温に冷却され、超高精度X線スペクトルを取得します。XRISMはこのように「冷たい目」で「熱い宇宙」を観測しています。我々はまた、未開拓の領域であるMeVガンマ線天文学を推進するため、またダークマターの正体解明のため、液体アルゴンタイムプロジェクションチェンバーという新検出器を開発しています。この装置もまた、-185℃の「冷たい」観測装置です。他にも、日本・アメリカ・スウェーデンによる国際共同実験XL-Caliburを推進しており、そのための硬X線望遠鏡の開発を行っています。XL-Caliburは、南極という「極低温地」から気球を打ち上げ、長期間フライトにより硬X線の偏光を測定することが目的です。同時に、将来の高性能X線望遠鏡を実現するための技術開発も行っています。
Keywords
- XRISM衛星搭載X線CCDイメージャ
- XL-Calibur気球実験: 硬X線偏光観測
- GRAMS実験: 液体アルゴンタイムプロジェクションチェンバーによる宇宙MeVガンマ線観測・暗黒物質探索
- 炭素繊維強化樹脂 (CFRP) による次世代X線望遠鏡の開発